虎毛沢~赤湯又沢
2013/8/12-15
メンバー : うど子
お盆山行、長年の持病である腰痛がイマイチのため水に浸かる沢はつらいので、仲間と離れてひとりまったりとした東北の沢旅に行ってきた。
できればアブちんの少ない易しいきれいな癒し系の沢で、岩魚三昧して、公共交通機関で無理の無いアプローチ…と検討した結果、虎毛沢に決定。
だいたいいつもこのパターンだと葛根田になってしまうのが常なのだが、たまには違うとこ行きたいし。
なんとか秋田の大水害からも逃れたようなので決行。
幸い天気予報は連日の晴れ。でもゲリラ豪雨はいつやってくるかと若干不安ではあるが。
ひ弱なおばさん一人旅なので念のため極力登攀要素を排除し、まずは赤倉沢側から一般道で虎毛山頂を目指し、高松岳方面への縦走路途中の適当なコルから虎毛沢本流に下降し、虎毛本流下降して赤湯又沢を詰め高松岳方面へ抜ける通常とは逆まわりのルートとする。
これなら虎毛沢の詰めのちょっとした滝を回避できる。
こまかい行動計画はあえて作らず、行き当たりばったり気分次第ののんびり旅とした。
ルールは、朝アラームで起きないこと!魚を釣ること!天然温泉掘って入ること!16日には帰宅できればそれで良し。
高速バスで新庄を目指し、そこからはJRで横堀駅下車。路線バスが数年前に廃止されているため、新たなシステム「予約制乗合タクシー」にて秋ノ宮方面へ。終点「畑」より車止めまでは一般タクシーとしての料金を支払いそのまま乗車。
ちなみに横堀から畑までは500円。バス料金と変わらない。
運転手さん、「昨日の午前中は大雨で釣師が流されてヘリが飛んだよ~。あとからずいぶん下流で見つかった。あんたは運が良いね。」だって
この予約制乗合タクシーは、行政から委託された民間タクシー会社が補助金を得て定刻の路線バスの代わりに運行するもので、事前に時刻表をチェックして予約をすることにより定刻/定額で乗車することが出来るシステムである。
乗客が居ないときには運行されない。停留所はあるが、予約した乗客が居ない限りは停まることは無い。
なので、時刻表は乗車時は定刻だが、目的地には時刻表よりも相当早めに到着することができる。
時には親切におばあちゃんちの玄関先まで出向いてくれたり、途中でタバコを買ったり、終点より先からは一般タクシーとして利用できたりと、会社/乗客双方にとって都合よい小回りの利くシステムと感心した。
予約時間のルールなどもあるのだが、出来うる限りは柔軟に対応していただける。
全国的に経営の厳しいバス路線も多いと思われますが、このように足を残していただけるのは非常に助かります!
初日は赤倉沢側からの一般道で虎毛山頂(泊)。
いやはやビール、つまみ満載のロケットザック、自分としては今世紀最大のトンガリを見せていて自宅出発時からゲンナリ⤵
ビール1日2本、ワイン、焼酎、ウィスキー、肉、野菜、米、下山後の温泉セット着替え、その他その他その他…。
最終水場で約5キロ更に水を担ぐ羽目になり最早苦行としか言いようもなく白目を剥いてやっと登った
展望もないひたすらの登り、小屋への道のりがこの山行一番のしんどさであった。
小屋周囲には水場は無い。
肝心のビールは、温い池とうの水をポリ袋に少し入れ風通しの良い日陰につるして夕方の気温低下を待った
翌日、高松岳への縦走路途中のC1016コルから虎毛沢本流へ下降。
コルといっても顕著なコルは無くただアップダウンがないだけ。
広いコルには何の目印も踏み跡も無いので見当つけて適当に下りるしかなく雰囲気と勘で降りる。
ブッシュを掴み比較的緩い傾斜で下りていけるが、やはり一人は心細くぶっ立ったスラブなんか出てきませんようにと祈りながら沢型にやっと入った。
下降に使ったこの枝沢、尋常でない倒木の巣になっており想定外に時間がかかった。
あらかじめ2ヶ所程度の懸垂は予定していたのだが、沢全体を新しい巨大なブナの倒木が覆い尽くしていて面倒で仕方ない。
懸垂しようにもまずザックを枝の隙間からロープで下に落とし、我が身を隙間にこじ入れてから下りなくてはならない。
倒木はほとんど全て新鮮?で、まだ葉が碧々と茂っていて、幹の裂け目が新しい元気な壮年のブナばかり。
一体全体どうしてこんな壮年のブナの墓場になってしまったのかとお口あんぐりであった。
やっと二俣やや下流C705の本流に降り立ったが、下りてきた枝沢を出合から見上げても、沢とは気付かないほどに倒木が堆積していた。
虎毛本流も大水が出た直後のようで、土砂が溜まり沢床が埋まりほとんど伏流に近いほどの水深。
しかも魚が通る隙間がないほどに倒木が塞いでいる。
右又、左又の探釣に出かける気力をなくしそのまま本流を下降することにする。
あとで聞いた所によると、7月は連日の大雨で増水がすごかったそうなので、もしかしたらそのせいなのかもしれない。
岩魚を求めて下るが岩魚がちっとも走らない
が、なるほど名物の亀甲模様のナメやら、渓の美しさは評判通りである。
しかし私には亀甲模様はどう見ても和風の絣の着物の模様に見える
いずれにしても自然の造形は誠に偉大だと思う。
さて、ナメとゴーロの沢床はほぼただ歩くだけで易しいが、両岸はぶっ立った大スラブだったりとテンバ適地が無い。
歩けど歩けど適地が無いのでテンバを求めて下降に専念することにする。
釣りする時間が無くなっちゃうよ~
気付くとアブ野郎にまとわりつかれていた。まっ黒けっけ。なんでやねん、聞いてないじょ~
到着したテンバは何日でも暮らせそうな最高の適地ではあったが、釣師の醜いデポ品がものすごくて腹が立った。
渓の美しさが台無しである。ブルーシートはおろか、生活用品その他、なんで背負って来れたものを背負って帰らないのか!
自分たちだけの土地だとでも勘違いしているんじゃないか。みんな燃やしちまおうかと本気で思った。
今度来た時には必ず責任持って全部持ち帰って欲しいです。
夕方になるとアブも下火になり、岩魚も走り出したが釣りが面倒になってしまった。
目の前で釣り上げたチビをかろうじて刺身にする。漬け丼は薬味丼だでもなかなか美味いよこれ!
翌朝も目の前でチビを釣り、朝食はヒラタケとの岩魚汁にする。実は昨日から腹が下っていて、すでに紙の残量がやばいライターも一つぶっこわれてしもうた。
今日は赤湯又の天然温泉 を目指す。
虎毛本流を下降するが平凡で長く、現在地が今ひとつはっきりしない。
ちょっとした滝を一度残置で懸垂。ドボン警報発令のひやひやヘツリ一回。足の付かない(普通の大人は付くと思います。)廊下もどき一回。ナナメでヌメッたじょりスラの下降では一、二歩手が無く、重荷では確信が持てない部分がありやっとの思いで下りた箇所があった。こんな時は「落ち着け!」だ。(深瀬名誉会長の教え。)
下りてから見上げると、登りの場合にはさほど問題になるとは思えない大した事ない場所なのだが、重荷での下降は振られるのでロープも使えずちょっと慎重になってしまった。
この直後なんとザックのショルダーハーネスがブチっと音を立てて付け根からちぎれてしまった!
じょりスラを下りた後だったので命拾いしたがなんということだ。
実は前日にはザックのフロントの天蓋をギュッと締めるストラップのバックルも壊れてしまっていた。
気を取り直し応急処置して再出発。
今日はアブちんも絶好調だが、岩魚も足元をびゅんびゅん走り気分が良い。
もう少しあとで釣ろう!
あと一本左から沢が入ったら次はゴルジュになって赤湯又出合だなと勘定しながら下っていると、大きな2段の釜を持つゴルジュの真ん中に左から沢が滝で入ってきた。
釜の右壁を重荷なので超慎重にへつり下り、ホッとしてザックを降ろすとあんれまぁ、ゴルジュは終わっちまって河原になっちゃったよ
はれまぁ、そんじゃあ今ドキドキで下りてきた滝が赤湯又出合だったのかしらぁガッビーン!
そんなアホなとずいぶん下流まで偵察に行くがやっぱりさっきのが赤湯又出合としか考えられず戻るしかない
自分の間抜けさを呪いながら再びザックを背にするが、さてどうやって赤湯又に入れば良いのさ?
中段の滝の落ち口にハーケン打って空身で渉ろうかとも考えたが失敗したら死ぬ。「落ち着け!」
ええぇぇ~どうすりゃ良いのよぉとふと上を見上げたら、ありゃ?上まで戻れば尾根から簡単に巻けそうじゃん
仕方なくもう一回滝の左壁をへつって滝上に戻った。
なんだよ、赤湯又に入る巻き道が明瞭についてるじゃない!あんなに逡巡したのにほんの一、二分で簡単に巻き下りる。
あぁ、なんつぅ間抜けなやつだワシは!
そういえばすっかり釣りのことを忘れていた。
赤湯又に入る直前に岩魚を補給しようと思っていたのに…。
赤湯又は温泉の沢なので魚は居ないし本流の水は飲めない。そのせいか多少アブも少ないようだ。
恐る恐る、このクソ暑いのにご丁寧にフードまでかぶったカッパを久しぶりに脱いでみる。
魚が居ないのが寂しいが虎毛沢に劣らず美しい沢だ。
面倒な場所は何も無い。何も無いのでただ長く標高がなかなか上がらない。
そうこうするうち、沢の中にいきなり湯気がもくもくの地獄谷のような温泉地帯が現れる。しばらくお口あんぐり呆然としていた。地熱地帯でブクブクもくもくしている。
フォッフォッフォ、テンバが近いよこれは!
もう少し行くと、左岸に大規模な湯気湯気地帯が現れる。台地に上がってみると、ドッヒャー!大大テンバ適地というか温泉地熱ブクブクの大きな広場であった。
しかし、通常の沢のテン場とは雰囲気が異なり、メロウではない💦
地面も岩も地熱で暖かい(熱い)。
適温の場所を選び寝床を拵える。
奥には小さな沢が入っておりビールが冷やせる。
さっそくバイルで風呂を掘りにかかるが温度調整が難しい。
全身が浸かれるほどの深さにまで掘るのは至難の業で時間がかかるのであきらめる。
生まれたままの姿で入浴したのは良いが、お湯から出ている部分(ほとんど出てる)にはアブちんがたかるし、ずっとかき混ぜてないと熱湯と水が混ざらないし忙しい。右手はペチンペチンと下着を振り回してアブを追い、左手は左のお尻の下の熱湯をかき混ぜる
地熱は一定でなく間欠的に噴き出すようだ。
痛てっ!このやろ、アッチ~うぉっ、痛てっ!冷て~ギャア~
いやはや、目的達成のため半ば意地になり、天国なんだか地獄なんだか全く不明であった
こんなん、もし誰かが不意に現れたら超変人が居る!と思われるだろうし、私自身も恥ずかしさで一生の不覚となるに違いない。
地熱のオンドルに寝て、暖かい岩に濡れ物を干し、ブクブクでお湯を沸かしたり米を蒸らしたりと便利ではあるが、野菜や肉、ビールを置ける冷えた場所がありゃしない 。
素っ裸でもサンダルは必須。
置くだけの湯沸しシステム。うど子のビリーポット置くだけ~
夜アブが消えると、今度は羽蟻が気がおかしくなりそうなほどまっ黒に集まってきた
虎毛沢もそうだが、食料を蟻どもから守る工夫が必要だ。
翌日は赤湯又沢左俣を詰める。
当初は右俣左沢を詰めようかと考えていたが、遡行頻度の高い左俣の方が情報があるので、稜線歩きは多少長くなるが大事をとった。
多少の小滝はあるが全く問題なし。
それよりも、支流支流と選んで詰めていくルートファインディングは、本流を選んでいくのとは違いかなり神経を使った。
C750の二俣も顕著とは言えず、左俣の方がずっと水量が少なくてしょぼい。
似たような枝沢は地形図には現れないが高度計の誤差内にいくつも入ってくるし、C830の分岐などは目指す左の支流にはほとんど水が流れておらず、この沢に入って行くのは確信が持てずかなりの勇気が必要だった。もはや勘の世界だ。GPSなんか無いし。
真夏のこの時期に登山道の無いただの藪の稜線に着きたくはない
「落ち着け!」と我が身に言い聞かせ、空身で何度も偵察をし、地形図を文字通り穴の空くほど見つめ、地形を読み、真剣であった。等高線の10m間隔というアバウトさが辛かった。
目印や踏み跡は一切無く、途中登った小滝の落ち口に懸垂の残置を見つけたときは10万円の宝くじに当たったくらい嬉しかった
しかし、なるほど下降には最適の平坦な沢だ。悪いところは一切無く平らな舗装道路のようなナメを歩く部分もある。
みんなが下降に使うのもなるほどだなぁと一人頷く。
無事にばっちり目的のコルに到着!やったぜ万歳ヤブコギ一分。気分良し!
振り返るとこの山行はトラブル連発であった。ザックが2箇所もぶっ壊れたこと。腹を下して紙が足りなくなった事(すみません、これは余計な事です )ライターがその後もう一つ壊れて合計2つとも使えなくなったこと。
幸い、針金や細引き、コンパクトな折りたたみ式工具、マッチを持っていたので事なきを得たけれど。
(マッチ売りの少女の気分が良くわかりました)
これはもしかして、この地に散骨されているという故、池田女史に少ししか(数滴しか)ビールを捧げなかったためにお怒りをかったのでしょうか
ガンジャコースなる登山道から下山し高級リゾート秋ノ宮山荘で日帰り温泉に浸かった。
もう交通機関が無いので、ビールを補給し適当なところで一夜を過ごし翌朝帰京。
みちのく一人沢旅を終え、ホッとして過ごしたこのホテル裏の一夜がお気楽で、実は一番宴会を楽しめたような気もする
なお、このルートは夏じゃなくて春か秋がおすすめです。
登攀要素ほとんど無く、沢登りというよりは沢旅です。
そんで上部を周回するなら私の行った逆ルートじゃなくて、通常の赤湯又左俣を下降して虎毛本流を詰めるほうがラクと思われます。
今度はやっぱりみんなと沢に行きたいな
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