南会津 山毛欅沢山~窓明山

2009.5.2~5

うど子

(写真別途)


2年前の5月、一泊で南会津の山毛欅沢山(ぶなさわやま)に行ったことがあります。

山毛欅沢山の南東尾根には残雪まぶしい素敵なぶな街道がありました。

山頂に登ってみると、ぶなの点在する太く白い稜線が左右にどこまでも伸びやかに続き縦走を誘っていました。

その時は後ろ髪を引かれながら、「必ずまた来るね!今度は縦走で。」と固く心に誓って、垂涎ものの稜線を後にしたのでした。


待ちに待った2009年のGW。瞼の裏にこびりついて離れない、あの風景の中に立つチャンスがやってきました。

山毛欅沢山~小手沢山~山毛欅沢山~小沢山~稲子山~坪入山~窓明山~家向山~巽沢山~小豆温泉というルートで、南会津「ぶなアルプス」の一部をゆっくり味わおうという計画です。

一年の中でも一番大好きな季節に大好きな場所で、ひとり贅沢な時を過ごしてきました。

一部伐採されてしまったとはいえ、南会津のこのあたりにはまだまだ貴重なぶなの山々が残されていて、静けさと自由を愛する「南会津ぶなフェチ?」を喜ばせてくれます。

写真はたくさん撮ったけれど、残念な事に3分の一は保存されてませんでした…そしてちっともうまく撮れてなかったのです…それはO社カメラのせいではなく、もちろん被写体のせいでもありません!(汗)

実際の景色は全然こんなもんじゃなくてもっとずっと素晴らしいです!ということをあらかじめ強く言わせてください。(汗)


5月2日

隅々にまでビールや酒やつまみが詰め込まれたザックを背に自宅を出発し朝一番の電車に乗り込む。 会津高原尾瀬口駅からは期待に胸を膨らませ?バスに揺られて小立岩下車。

前回来たときはアプローチが夜になったこともあり最終バスには私一人でしたが、さすがに今回は数人の登山者らしき乗客が乗っていました。

すっかり雪の消えた安越又林道を行きます。

2週間前に会津駒山スキーの帰路、ついでにここを偵察しに来たときはまだまだ雪があって車は途中までしか入れない状態でしたが、それからほんの2週間しかたってないのにもう雪は跡形もありません。

今年は記録的な寡雪で春も早いようです。

山毛欅沢山へのルートはいくつか考えられますが、私は前回同様山毛欅沢を砂防堰堤付近で渡渉し、林道のどんづまりから右側の尾根に上がることにしました。

それは以前来た時に気まぐれでとった下山ルートに、素晴らしい三ツ星の泊まり場を偶然発見したからです。

また初日は歩き始めるのが昼頃と言うこともあり、この泊まり場にたどり着くことだけが目的なのでお気楽なものです。

山毛欅沢をコゴミ沢出合まで詰めようかとも考えましたが、冬靴を背負ってみると荷が重くていやになっちゃったのでこの作戦は却下。

青空の下、汗だくで急な斜面を潅木を掴んで登っていきます。

標高900m付近になると傾斜も緩み、足だけで立つことが出来るようになるのでぐっと楽チンになります。

ヤブコギの途中、2年前につけた赤布に再開しました。


「ごめん、ごめん、遅くなっちゃって。」と謝りながら回収しますが、申し訳ない反面、久しぶりの再会がちょっと感動でもありました。

人間の都合で付けた赤布はゴミであるばかりでなく、木にとっては迷惑な代物です。

この後も続々と回収できてホッとしました。


尾根から楽園を見下ろす。


標高1200mくらいから所々雪が拾えるようになりますが、今日は稜線には上がらずこの辺りから目的の楽園へ下りることにします。

歩き始めてからここまで約2時間のお気楽行程。

さぁ、お店をひろげよう!ビール→ワイン→ビール→焼酎。春の宴OPEN!


小さな流れもありおいしい水もとれます。


この流れを下流にたどると伏流してしまい、そこには「げんこつフキノトウ王国」があります。

でも今回は行きませんでした。


3日

鳥たちの歌声を目覚ましに起き、そして出発。

以前来た時に下降に使ったルートを登って尾根に上がる予定でしたが、今年はすでに雪が消えてびっしりと濃い薮になっていたので、仕方なく昨日のルートを戻って山毛欅沢山南東の尾根に乗ることにします。

2年前の泊まり場に着きました。

懐かしいぶなの木に再会!今年のぶな街道は雪が少なくて前回よりも薮が起きてきています。

冬の間ずっと雪の下でじっとしていた枝が、春を迎えて今まさにピン!と跳ね上がろうとしています。

枝には小さな芽が。この生命力には頭が下がるばかりです。

周りの山々に雪は無く、とても5月連休とは思えません。

ずっと遠くにこれから向かう窓明山方面が霞んで見えます。


う~ん、あそこまで行くのか。遠いなぁ~。


時々新鮮な熊ちゃんの糞や、小熊ちゃんの真新しい足跡があるので、「ごめんねぇ~」なんてわざと声を出しながら歩いたりして自分の存在を知らせます。

なつかしい薮を抜けて念願の主稜線に立ちました!

あれれ?以前来たときとはかなり様子が違うぞ!

真っ白な太いはずの稜線は寡雪のため思っていたよりもずっと細く、しかも雪はかなりよごれてしまっていました。 ちょっとがっかり。

でも帰って来たよ!ただいま。

ここにザックをデポして、サブザックに最小限のものだけ入れて小手沢山方面へ鼻歌ルンルンでお散歩に出かけます。

ほんのちょっと歩くと、そこにはだだっ広い雪原がありました!

ワァ~オ~!大きなぶなの木が点在しています。

これこれ!これに会いたかったのですよ!フッフッフ。

と、その時、柔らかな白いうねりの向こうに2人の人影が…。

ありゃ~、人が居る!?熊に会うよりびっくりです。

「こんにちは」と挨拶を交わしたものの、あちらの方もびっくりしたと言うかがっかりしたと言うか、「あぁ、まだ人に会いたくなかったなぁ…」と。

やっぱりね、そうですよねぇ。お互い様とはいえどうもすみませんねぇ。

この方々とは下山後バスの車中で偶然再会し、電車も一緒でなんと北千住までご一緒していただいたのでした。う~む、世間は狭い。


とうとう夢にまで見た小手沢山にやって来ちゃいました。

あぁ、なんていいところ。ニヤニヤが止まりません。

もう、ホントにぐるり見渡す限りいいところ!

今日は稲子山手前までの予定なので、時間はたっぷりあります。今回は絶対に急ぎませんよ。

どっぷりとこのぶなの山に浸るために来たんですから。

さて、これからどうしよっかな?恵羅窪山方面も良さげだしなぁ…しばし思案のすえ、早めに泊まって宴会することに決定。

ということでザックをデポした山毛欅沢山に引き返します。

再び重いザックを背負い歩き出します。山毛欅沢山山頂付近の雪庇はほとんど崩れていました。

今回のルートは全般にわたってほぼ南側に雪庇が出来ていて雪堤となっているのですが、今年は雪が非常に少ないため庇の部分は落ちているところが多かったです。

雪庇の庇が落ちているため、雪の脚がしっかりと接地していて安心して歩けるという利点はありますが。

以前見た広い稜線は、今回は尾根中央部の雪が融けて既にブッシュが起き上がり立派な薮になっているので、白い雪の部分が狭くなってしまってちょっと残念。 ほとんど雪の上を歩けますが、雪が不安定なところや全然ないところもあって何度も薮を漕がされます。 雪自体はおおむね適度に締まっていて、つぼ足でも十二分に快適に歩くことが出来ました。


いざという時のエスケープルートに決めていた標高1436mの通称「三本ブナ峠」には、その名の通り三本のぶながあって目印の赤布がありました。

なるほど、歩きやすそうな緩やかな尾根が続いています。

幸いエスケープの必要もないので次の小沢山に向かいます。今日は小沢山を過ぎて稲子山手前の平坦地で泊まる予定です。

今宵のねぐらを決めてザックをどさりと下ろすと、ほんの10メートルくらい先に単独の青年が居て稲子山の取り付きを目指して下って行くところでした。

今回3人目に出会った人間です!これは大賑わいと言えるでしょう。

時計を見ると3時、これから稲子山を越えるとなると2時間近くはかかるはず。

稲子山はアップダウンの少ない今回のルートの中では、唯一と言ってもいい急登です。

「男の子はえらいなぁ。急いでいるのかな?この連休どこまで行くんだろ…」なんて勝手な想像しながらのんきに居酒屋を開店し、ビール片手にテントの中からずっと見物してしまいました。

ビール→日本酒→焼酎→バーボン。ハフゥ~。

(実は、この方とも帰りの会津高原駅で再会することに。あとでわかったのですが、なんと行きのバスでは私の前の席に座っていた方でした。結局、先程のお2人と合わせて仲良く4人で帰京することになったのでした。なんというめぐり合わせか!?世間はホントに狭い~!この稜線はもはやメジャールートだ!)


テントの中から見る稲子山の急斜面。


4日

さあ、いよいよ稲子山を登ります。

遠目では結構な急斜面で、おまけに雪の付き方があまり良いとは言えないように見えました。

ストックをしまい、ピッケルを出して確実に行くことにします。実際に取り付いて見ると思ったほどではなく、まあまあ快適に登ることが出来ました。

とは言っても雪はそれなりにグサグサで、短いながらナイフリッジになっているところもあります。

今回ほんのお守りのつもりで持ってきた、8本爪の軽アイゼン(ちょっと改造。スノーシャットなし。)をつけて登ってみましたが、一歩ごとに雪団子が思いっきり付いてしまい良し悪しでした。

すぐ横でザザァーっと雪がなだれる音がします。

焦って見やるとカモシカ君の仕業でした。あぁ、びっくり。脅かすなよぉ!もし自分のルートの上でこれをやられたらたまったもんじゃないですったらぁ。

登りの途中で振り返ると、なかなかの高度感です。

稲子沢源頭も雪解けを迎えています。

稲子山上部はトラバースもできそうでしたが、最後稜線に上がるところがちょいかぶりの雪壁となっていましたので正面から越えました。

正面にはすでに雪庇の庇部分は無く、ごく短い急斜面になっていました。

さて、稲子山を越えたところが今山旅のハイライト。

ぶなの点在するあきれるほど広い雪原がずっとずっと続いています!

これですよ、これ!ふふふ。

こんな素晴らしいところがこの世にあったなんて。もう休憩休憩!大休憩!

もしS子さんがいたら「すてき。」と胸に手を当て目をつぶり、「あぁ~ん、#$%&※???…」となにやら意味不明の多分フランス語みたいのをぶつぶつ唱えたことでしょう。

休憩終えて歩き出してもしばらくずっと、この極楽天国ぶな大大雪原が続いてます。

もう、「何これぇ~!」と嬉しい悲鳴。はぁ~、シアワセ。はぁ。


これは、端っこのほんの一部。写真が全然うまく撮れてな~い!(泣)


ここまで来るとどっしりとした窓明山が正面に近づいてきました。

右手には数年前に詰めた梯子沢の源頭部が大きく広がっていて、感慨深く眺めながら坪入山を目指します。

坪入山へは急な斜面を「うぅ、年だぁ~。」とゼェゼェ、ハァハァ。

状況によってはちょうど雪崩れそうな斜度で、所々クラックが入っているところもありました。


急斜面を登りきったところから坪入山山頂をのぞむ。


坪入山から窓明山方面へ伸びる稜線。


赤布のある山頂に着きましたが、なんと展望がとても良くてびっくりです。


7月に来たときは思いっきり薮の中でしたので展望などあるはずもなく、とても同じ場所とは信じられません。

丸山岳方面からのトレースがありましたが、正面のグサグサに腐ったナイフリッジが遠目ではちょっとやばそうに見えました。

あとで聞いたことですが、丸山岳からのパーティーは坪入山までなんと4日間かかったとか。

もちろんヤブコギのせいです。今年がいかに寡雪であるかがわかります。


坪入山から窓明山にかけてもまったりと緩やかな地形は相変わらずですが、ぶなにかわって背の低い針葉樹が目立ち始めます。

なんかカナディアン?(行ったことないっす。)

御神楽沢支流ミチギノ沢のスケールの大きい源頭部が眼下に一望できます。夏では考えられません!

ずいぶん前に御神楽沢詰めたなぁ。あの時はここを降りたんだったなぁ。


ここらに泊まる予定でしたが、まだ昼前。天気もちょっと崩れそうな予報だったので先に進みます。


坪入山を振り返ってみる。


窓明山山頂はもうすぐです。


左に伸びる尾根を下る予定。


窓明山山頂の雪庇が不安定なので薮から巻いて越えますが、使えそうな雪にはそっと乗って歩いてみます。でも不安定でちょっとやな感じ。


山頂直下の雪庇を薮から覗いてみますが、やばそうなのでやっぱり薮に戻ります。

あんなに遠くに見えた窓明山も、その山頂は今や自分の足の下。

だだっ広いまあるい山頂です。

手を伸ばせば届きそうなところに有名な三ツ岩岳がどっしりと構えています。

スキーしてる人はいるかな?沢筋はもう無理そうですが。


私は喧騒を避けて家向山へと降りることにします。

さぁ、雨が降る前にテントを張ってしまおう。

なんと、ここもたおやかな良い尾根です。大好きなぶながいっぱい。


振り返ると、窓明山や三ツ岩岳はすっぽりとガスに包まれていました。


5日

おかげさまで、なんとか天候も持ちこたえてくれたようです。

気持ちの良い朝を迎えることが出来ましたが、今日は帰らなければなりません。

愛するぶな林を抜け、何度も何度も振り返りながら旅の最後を噛みしめて歩きます。

いい山旅でした。

窓明山からは夏道がありますが、残雪期の今は途中までは雪に覆われています。

家向山を過ぎて巽沢山へ向かう途中が、一箇所下りの場合尾根をミスりやすいので注意が必要かと思います。

私もあらかじめ地形図にマークして気をつけていたつもりでしたが、のん気にフンフンと下ってしまって一本隣の尾根に誘われかけてしまいました。

すぐに気がついて戻りましたが、左(東)の沢筋を意識してグイっと曲がる必要があります。

下りの場合視界がないとちょっとわかりずらいかも。


「え~ん、まだ終わりたくないよぅ。」


あんなに楽しみだった春の会津にやっと来れたのに、もう帰らなければならないなんて。


だだをこねる私を、道端にびっしりと咲いた小さなピンクの花たちが慰めてくれます… 大好きなぶなの新緑もなだめてくれます…


でも、やっぱりまだ終わりたくない。今すぐ戻りたい。


あぁ、これが今年最後の一歩になっちゃうの…


そして、すっかり雪はなくなってしまいました。

だけど、道端には実生のぶなの赤ちゃんがあっちこっちに生まれていました。


天気も良く、この幸せな山旅を与えてくださった神様に感謝しながら満ち足りて下界へ戻ります。

神様が最後にもうひとつ贈り物をくださいました!

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沢登り山岳会 遡行同人 梁山泊 - 山をまるごと楽しむ!

遡行同人 梁山泊は「沢登り」を中心に、山スキー・岩登り・アイスクライミング・雪稜登山など、四季を通じて山をまるごと楽しむ山岳会です。拠点は東京で、安全登山を心がけており焚き火、山菜&きのこに興味がある方、未経験者・初心者も大歓迎です。